大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)1055号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人椎木緑司の上告理由第一点について。

物件を永続して占有するという事実状態を権利関係にまで高めようとする取得時効制度の趣旨にかんがみれば、取得時効の目的物件が何びとの所有に属していたかを確定する必要は、必ずしもないというべきである(最高裁判所昭和四〇年(オ)第三五三号同四四年一二月一八日第一小法廷判決、民集二三巻一二号二四六七頁参照)。したがつて、原審が、被上告人先代美濃地忠実より佐々木美三郎に対する本件山林(地上立木を含む。以下同じ。)の持分の売買契約は特約の定めるところにより効力を発生しなかつたとする被上告人の主張につき、判断することなく、ただちに被上告人の仮定的主張である取得時効につき判断し、忠実の相続人である被上告人のために時効の完成を認めたことは、正当というべきである。論旨は、右と異なる見解のもとに、原判決の理由不備をいうものであつて、採用することができない。

同第二点ないし第四点について。

美濃地忠実が佐々木美三郎から本件山林持分の返還を受けたと信じ、昭和七年一〇月頃所有の意思をもつて平穏・公然、善意・無過失に、他の共有者らとともに本件山林の占有を開始し、以後忠実の相続人である被上告人に至るまで右占有を継続し、一〇年を経過したことにより、被上告人のために右持分の取得時効が完成した旨の原審の認定・判断は、挙示の証拠に徴して首肯することができ、その過程に所論の違法はなく、また民法一六二条の解釈適用について所論の違法はない。同第三点には、時効中断をいう部分があるが、上告人は原審において中断の主張をしていないのであるから、原審が時効完成を認めたのは当然といわなければならない。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下田武三 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 岸 盛一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例